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2008年4月 2日 (水曜日)

新車

僕が人生において新車を買ったのは一度だけだ。「カローラ・SEリミティッド」というもの。30歳頃のことだ。

車体の色が「白」なら2週間で納車できるということだったが、ほとんど注文する人がいないという「こげ茶色のツートンカラー」を頼んだため、納車に一ヶ月以上かかった。待ちに待った新車が来たときは嬉しくてしょうがなかった。

買ってから一ヶ月くらいたった頃、休日の昼間、銭湯に出かけた。その帰り道でのこと。

あまり車の走らない道だったが、僕の走っている道は「優先道路」だった。そこへ、一旦停止をせずに、速度も落とさず、信号のない交差点から大回りで回ってきた車があった。広くない道で、真正面に突然出てきたから避けようが無い。こちらは急ブレーキを踏んだが、事故後に見てみると、相手はブレーキの跡さえなかった。僕の今までの人生の中で一番大きな事故だった。そして車の前の部分は大破した。

こんな状況でも、責任が「100対0(ゼロ)」になることはまず無いだろう。ところが対応した警察官はなんとも親切(?)な人だった。相手のドライバーに「君が悪い。ちゃんと責任を持って対応しなさい」と言い残して去っていった。相手が「僕は一旦停止したような気がする」「相手(僕のこと)がスピードを出していた」などと発言して、警察官の心証を悪くしたこともあっただろう。

さて、相手は仕事中で、車は社用車だった。事故後の話し合いは、僕と相手の会社の事故担当者との間で行なわれた。幸運なことに担当者は「物分りの良い人」だった。責任が事実上100%会社側にあることを認めた。そして、「こちらの車はもちろんこちらで直します。あなたの車も責任を持って修理します」と言ってくれた。だが、こちらは買って一ヶ月未満の新車なのだ。それが「事故車」になってしまうのだ。そして、表面上はわからなくても、おそらく車体に微妙なズレなんかが生じているだろう。お気に入りの塗装も完璧に元通りになるかわからない。僕は宣言した。「修理なんかしなくて良い。この車はお宅の会社にあげる。かわりに、まったく同じ仕様の車を僕にくれ」と。

知り合いの弁護士に尋ねてみた(1時間相談してタダだった)ところ、「100対0でも、まったく新しい車というのは無理だろう」とのことだった。僕もそれはわかっているつもりだった。だけど「買って一ヶ月未満の新車が ……」という思いはどうしようもなかった。そして ……

相手の会社の名前なんてとっくに忘れたが、話を聞いたこの会社の社長が事故担当者に言ったそうだ。「俺が、その立場になったら、やっぱり修理なんかじゃ納得できない。俺だって新車を要求するだろう」と。

かくして、さらに一ヵ月後、僕はまったく同じ仕様の新車に乗ることができた。だから、僕が人生において新車を買ったのは一度だけだが、新車には2台乗っている。

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